法律コラム (H27,9)
今号では、能力不足による解雇が裁判で認められた例と認められなかった例をご紹介します。
多くの就業規則においては、普通解雇事由として「業務遂行能力がないこと」を掲げています。この能力不足が解雇事由として挙げられるのは以下の理由によります。雇用契約において労働者は使用者の指示に従い業務を遂行する義務(労務提供義務)を負っていますので、使用者が指示した業務を行う能力を全く有していないか、あるいは不十分に業務が行えないとすれば、それは雇用契約上の債務不履行になります。したがって、労働者の能力不足によって雇用契約の目的を達しないとすれば、使用者は雇用契約の解約、すなわち解雇をなしうるとします。その意味で能力不足は普通解雇事由となり得ます。
しかし、能力不足が解雇事由になるといっても、一般的に長期雇用システムの下の正規社員は、職種・職務内容を限定せず新卒者として採用され、社内教育を通じ、社内でさまざまな職種・職務内容を経験することによりキャリアアップを図っていくことが予定されています。このような新卒採用者については、一時期の職務遂行が不十分であるからといってそれを理由に「能力不足」として解雇することはできない可能性が高いといえます。
〈能力不足を理由とした解雇が有効とされた事例〉
(東京地裁・平11.12.15判決)
空調装置等の製造販売、輸入等を生業とする㈱Yに採用面接時に他社での経験を説明したことによってシステムエンジニアとして十分な技術・能力を備えた技術者として評価されて入社したXが、システムエンジニアとしての技術・能力はもとより、アプリケーションエンジニアとしての技術・能力も不足し、かつYにおいて実施された現場指導、教育訓練等を受けたが向上の意欲が乏しく、その成果が上がらなかった。
裁判所はこの解雇について「勤務成績が不良で就業に適さないと会社が認めたとき」に該当し、また本件解雇は「種々の方法を通じて原告の申述を聞いたほか、観察期間を設けて勤務態度の改善努力の有無を観察する措置をとった」上でなされており有効であると判断しました。
〈従業員としての適格性がないことを理由とした解雇が認められなかった例〉
(大阪地裁・平14・3・22判決)
CはD社の従業員であり、入社時のテストのついては比較的上位であったが、勤続年数を重ねるごとに成績が下がり、標準を下回っていると評価されました。Cの勤務成績が低下した時期にD社における人員削減があり、CはD社より退職勧奨を受けたが、Cは拒否したため、関連会社に出向しました。関連会社での業務においても任せられなくなり、CはD社より解雇勧告を受け、解雇されました。
裁判所は「労働能力が劣り、向上の見込みがない」という解雇事由について、「平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならず」、「他の解雇事由との比較においても、右解雇事由は極めて限定的に解さなければならない」として解雇事由は認められないと判断しました。
次号も労働問題に関する事例を載せる予定です。
代表弁護士 竹田卓弘
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