たけだより法律コラム(H29,7・8月号)

Q.退職金の支払いについて、本人の承諾を得た上で、退職金規定から一定割合を減額して支給することを検討しています。そこで質問ですが、本人との合意があれば、減額は可能でしょうか。また、大幅な減額、又は不支給とすることはできますか。

【A】

1 退職金の法的性質

 退職金は、賃金の後払い的性格を有すると言われており、法律上、賃金の一種であると考えられます。そのため、使用者が一方的に退職金の支給額を引き下げることはできません。

2 合意だけでは不十分

 ただし、労働者との合意があればよいかというと、それだけでは不十分です。なぜなら、労働契約法12条により、たとえ合意があったとしても、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分について無効とされるからです。

3 退職金債権の放棄

 そこで、労働者に退職金債権を放棄する意思表示をしてもらうという方法が考えられます。この方法によれば、退職金を放棄した部分について、支払わないとする取扱いも可能です。

4 退職金債権を放棄してもらう場合の問題点

 しかし、労働者に退職金債権を放棄してもらう場合、本人が自由な意思に基づいて放棄する必要があります。
 判例の中には、退職金を放棄する意思表示の有効性が問題となった事案において、「退職金債権放棄の意思表示が労働者の自由な意思に基づくものであると認めるに足る合理的な理由が客観的に存在するか否か」を判断したものがあります。

5 大幅な減額や不支給は困難

 退職金の大幅な減額や不支給について、たとえ会社の経営状況が非常に厳しいという事情があったとしても、それだけで、労働者の自由な意思に基づく放棄を期待するのは、困難であると思われます。
  放棄の有効性が後々争いになるリスクを考えると、就業規則を改定し、退職金を引き下げ、その点につき、労働者から個別の合意を得るほうが確実だと考えられます。

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代表弁護士 竹田卓弘

代表弁護士 竹田卓弘

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