法律コラム (H28,9)
【Q】台風接近に備えて事務所に社員を待機させた場合、実際に働かせなくても賃金を支払う必要があるのでしょうか?
【A】
1 労働時間とは
労働基準法上の労働時間とは、使用者・労働者の意思にかかわらず、客観的に見て労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます(判例)。労働時間に当たれば、当然に労働者に対して賃金を支払う必要があります。
2 待機時間は労働時間に当たるのか
それでは、実作業に従事していない「不活動時間」についても、労働時間に当たるのでしょうか。
労働時間に当たるかは、上記で述べたように、客観的に見て労働者が使用者の指揮命令下に置かれているか否かによって判断します。指揮命令下にあるかどうかは、使用者の関与の存在や職務遂行と同視しうるような状況の存在があるかによって判断されます。これらの要件を満たせば、たとえ実作業に従事していなくても、労働時間に当たり、賃金の支払義務が生じます。
例えば、飲食店などで、客が途切れたときなどに適宜休憩してもよいが、客が来店した際には即時に対応することが義務づけられている場合には、接客対応していないときであっても、使用者から、客の来店を待つという労働を義務づけられているといえますので、指揮命令下にあるものとして、労働時間に該当すると考えられます。
3 質問に対する回答
以上のことから、台風が上陸し、事務所が浸水するなど緊急事態発生の場合の対応を義務付けて、事務所敷地内で待機を命じた場合には、上記の飲食店の例と同様、実際に作業が生じなくても、指揮命令下にあるものとして、労働時間に該当すると考えられます。
なお、労働基準法上の労働時間に該当するとしても、当然に通常の時間単価の賃金請求権が発生するわけではなく、この点は労働契約によっていかなる賃金を支払うものとされているかによって決まります。特段の定めがなければ、合理的な解釈として、通常の時間単価を支払うことになりますが、災害待機の場合の取り扱いとして、待機手当など一定の額が合意されている場合にはそれによることができます。
ただし、時間外割増、深夜割増、休日割増の割増部分(25%部分)については、労働基準法上、計算方法が定められています(労基法37条1項・4項)。そのため、災害時の待機手当を通常の時間単価より低く設定していても、割増部分については、「通常の労働時間の賃金」を基に計算する必要がありますので注意が必要です。
代表弁護士 竹田卓弘
最新記事 by 代表弁護士 竹田卓弘 (全て見る)
- 春日井市教育研究所が発行している、研究所だより「春風」に竹田弁護士の寄稿が掲載されました - 2022年9月15日
- 夏季休業のお知らせ(2022年) - 2022年6月19日
- 夏季休業のお知らせ - 2021年8月12日