たけだより法律コラム(H29,9・10月号)

Q.最近、管理職から「部下がうつ病のようだ。」といった相談を受けることが多くなりました。会社としては、早期発見・早期治療を重視しており、医療機関で受診することを勧めていますが、うつ病の疑いのある従業員がその勧めに従わない場合、精神科の受診を強制することはできるのでしょうか。

【A】

1 企業の安全配慮義務

 企業は、従業員が労務を提供する過程において、その身体・生命を危険から保護するよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。そして、うつ病のようなメンタルヘルスについても、安全配慮義務の対象になると解されています(電通事件 最判平成12年3月24日)。

2 受診を命令することの可否

 企業として安全配慮義務を尽くすため、まずは当該従業員に対して専門医の診断を勧めるといった対応を取ることが考えられます。問題は、従業員がこれを拒否した場合に、業務命令として専門医の受診を指示できるかです。

3 受診命令を認めた判例

 判例の中には、就業規則において受診義務が規定されている場合において、健康の早期回復という目的に照らして合理性ないし相当性が認められる限り、企業は精密検査の受診を命じることができると判断したものや(電電公社帯広局事件 最判昭和61年3月13日)、就業規則に規定がない場合でも、企業として受診を命じる必要性があり、受診指示の内容が合理的であれば、従業員は信義則上、当該指示に従う義務があると判断したものがあります(京セラ事件 東京高判昭和61年11月13日)。
 これらの判例からすると、就業規則等の規定の有無にかかわらず、健康保持等の正当な目的のために必要な範囲であれば、専門医の受診を命じることが可能であると考えられます。

4 受診命令が拒否された場合

 上記のように目的の正当性や必要性などから企業による受診命令が認められる場合に、従業員が正当な理由なくこれを拒否すれば、業務命令違反として懲戒処分の対象とすることも一応可能と考えられます。
 また、従業員が頑なに企業による受診指示を拒んだ場合には、結果として疾患が重症化したような場合であっても、その限度において、安全配慮義務違反の責任が軽減されると考えられます。

5 従業員への配慮も必要

 メンタルヘルスは、本人に自覚がなかったり、精神科の受診に抵抗感を感じる人がいまだ多いという実情があります。そのため、企業には、通常の疾患に比べて、より慎重な対応が求められます。
 そのため、従業員が専門医を受診することを拒否した場合であっても、まずは家族の協力を得たり、社内外の専門スタッフによる説得やケアを試みたりするなどして、企業は、安易に業務命令として精神科の受診を強制したり、懲戒処分に付したりすることは避けるべきだと考えられます。

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代表弁護士 竹田卓弘

代表弁護士 竹田卓弘

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