たけだより法律コラム(H29,11・12月号)
Q.長時間の残業をする労働者がいるため、適正な労働時間管理及び社員の健康に配慮して、一律に午後8時に消灯し、退社するように命じたいと考えています。こうした行為は、法律上問題がありますか。
【A】
1 労働時間の意義
労働時間をどの程度労働者に課せられるかは、労働契約をはじめ、就業規則や労働協約の規定内容等によって決定されます。このように決められた労働時間について、使用者は労働を命ずることができ、労働者は労働を提供する義務を負うことになります。
2 労働時間を超えて労働する権利の有無
上記1のように決められた労働時間は、使用者の命令に応じて労働者の義務として認められるものであり、逆に、労働者がこの労働時間を超えて労働する権利があるということにはなりません。
したがって、使用者が一律に消灯し、強制退社させることも労働者の権利侵害にはなりません。
3 一定のノルマがある場合の問題点
使用者が一定時刻に強制退社させるとなると、労働者は所定の労働を終えることができなくなり、やむを得ず帰宅後に労働をするかもしれません。このような帰宅後の労働について、使用者が賃金を支払う必要があるのかといったことが問題となります。
この問題は、言い換えると、帰宅後の労働が労働時間に当たるかという問題になります。
4 労働時間に当たるかの判断方法
法律上の労働時間とは、使用者・労働者の意思にかかわらず、客観的に見て労働者が使用者の指揮監督下置かれている時間をいいます(判例)。そして、指揮監督下にあると認められるためには、使用者の明示の指示がなければならないわけではなく、黙示のものでもよいとされています。
5 帰宅後に労働することは労働時間に当たるか
帰宅後に労働すること、いわゆる持ち帰り残業は、あくまでも家庭で行われるものであり、そこに使用者の指揮監督が及んでいるとみるのは無理がありますし、労働時間の把握も極めて困難になるという問題があります。そのため、持ち帰り残業は、労働時間に入らないと考えられます。
ただし、強制退社させながら、明らかに帰宅後に労働しなければ終えられないような業務を命じていた場合には、黙示の業務命令があったとされ、労働時間と認定される可能性があるため注意が必要です。
代表弁護士 竹田卓弘
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