法律コラム (H27,9)
今号では、普通解雇が裁判で認められた例と認められなかった例をご紹介します。
〈勤務成績、勤務態度不良を理由とした解雇が有効とされた事例〉(東京地裁・平12.6.6判決)
本社において15年間、特に問題なく経理業務をこなしてきた社員(以下、A)が、他事業所へ配転になった途端、業務遂行能力が落ち、勤務態度も悪くなったことから、就労先(以下、B社)から解雇されるに至った事例です。
Aは、本件解雇はB社が計画的・意図的にAを排除する体制を取り、まずはAを経理業務から外し、配転先においても業務をさせないようにしたので、解雇権の濫用であると主張しました。
裁判所が解雇を有効と判断した業務遂行能力と勤務態度の劣りがどの程度のものなのか。本件の具体的事実としては、①通常の処理速度より相当程度遅い作業スピード、②勤務中の居眠り、③同じ業務内容に対し質問を繰り返す(メモを取らない)、④上司や同僚に対する「あんたは馬鹿」「ここでの仕事はつまらない」「今後は○○(上司)の命ずる仕事は一切しない」等の発言、⑤本社に再び配転されても著しく遅い作業スピードなどがあります。またAの主張する「計画的・意図的にAを排除する体制」ですが、裁判所は、①Aが配転となった契機は経理業務のコンピュータ処理が決まったからで、その決定は(効率的処理のため)会社として当然、②コンピュータ操作能力を有していなかったAが本社において担当業務が無くなり他へ配転となったのは合理性を有する等により、Aの主張を認めませんでした。
〈病気で元の業務を遂行できなくとも他に配置可能な業務を検討すべきであり、それを怠った解雇は無効とした事例〉(大阪地裁・平成14.4.10判決)
社員(以下、C)が病気になり、就労先(以下、D社)でそれまで担当していた業務遂行ができなくなってしまった。D社はCに対し、隣接する別会社(代表取締役はD社と同じ)での単純作業を提案するも、Cはこれを拒否。そのためCはD社を解雇され、解雇権の濫用が争われた事例です。
裁判所は、労働者が職種や業務内容を特定せずに雇用された場合、現に就業を命じられている業務の遂行が不十分であっても、他に配置可能な業務があるか検討すべきとしています。そして、D社がCに対して行った提案(別会社での単純作業)は、別会社での勤務を勧めたにすぎないのであって、他に就労可能な業務を検討したとは言い難く、Cがこれを断ったことでCが労務の提供を拒否したとは言えないと判断されました。
次号も解雇に関する事例を載せる予定です。
代表弁護士 竹田卓弘
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