たけだより法律コラム(H29,5・6月号)
Q.当社では、特に交通事故に関して厳しい懲戒処分の対象とするようにしています。ところで、先日、内定者が不注意運転から事故を起こしました。このような場合、内定の取り消しは可能でしょうか。
【A】
1 採用内定とは
在学中に採用され、正式入社前の者を「採用内定者」と呼びますが、採用内定者には「採用予定者」と「採用決定者」の2種類があります。この両者は法律上の地位が大きく異なりますので、内定者がいずれの立場であるか注意する必要があります。
2 採用予定者とは
単に採用予定である旨の通知をしているだけの場合をいいます。この内定通知をしただけの段階では、労働契約の確定的合意がなされたとはいえません。すなわち、後日、当事者間において、何らかの正式決定があることが予定されています。
3 採用決定者とは
内定通知後、必要書類の提出や入社日の通知、入社前教育の開始等、会社の「採用確定の意思表示」と認められる行為があれば、それによって労働契約の成立があったと解されます。それ以降は、「採用決定者」として保護されます。
4 内定取り消しについて
(1) 採用予定者の場合
採用予定者については、労働契約成立前である以上、内定取り消しをしても解雇にはなりません。すなわち、内定の取り消し自体は可能です。しかし、会社と採用予定者との間には、労働契約の締結の予約等の契約が成立していると考えられるため、内定取り消しの理由が不当であれば、予約契約の不当破棄を理由として、損害賠償責任を負う可能性があります。
(2) 採用決定者の場合
採用決定者についての内定取り消しは、労働契約締結後である以上、労働契約の解約となり、内定の取り消しが制限されることになります。もっとも、この契約には、内定という性質上、解約権が留保されていると考えられます。内定取り消しが認められるかは、この留保された解約権が適法に行使されたといえるか判断することになります。 裁判例によると、解約権が適法に行使されたといえるかについて、内定の取消事由が採用決定後の使用者の調査によって知ることができた事情か、その取消事由に基づいて解雇することが客観的に相当かなどを判断して決定したものがあります。 今回のケースであれば、交通事故は内定時に知り得なかった事情ですから、交通事故の態様・程度等により、相当か否かは決せられることになります。飲酒運転や信号無視など本人に重大な過失が認められ、事故の結果が深刻であれば、内定取り消しは可能と考えられます。しかし、軽微な事故(自損事故や、第三者に対して何ら被害を与えていないような事故)であれば、内定取り消しは認められない可能性が高いといえます。
代表弁護士 竹田卓弘
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